この記事でわかること
  • 卸業者が見せてきた数字は本物だった。読み違えたのは私のほうで、「今動いている」を「これからも動く」と読んでいた——その違いが分かる
  • 同じ公的統計でも、後から数字が書き換わることがあり、隣の分類では逆に動いている。どの表を見るかで結論が反転する仕組みをおさえられる
  • 手法を乗り換えたくなったときに、追う指標を1つに絞り、コントロールできることとできないことを分ける具体的なやり方が持ち帰れる

この記事の要点:よくある質問

Q: 今いちばん流行っている手法に乗るのは間違い?
A: 間違いとは限りません。ただ、その手法について示されている数字は多くの場合「今動いている」ことを表すもので、「これからも動く」ことを保証するものではありません。誰かの数字を根拠に始めるのではなく、自分の手で小さく試して確かめてから広げるのが現実的です。成果には個人差があり、収益は保証されません。
Q: 「情報商材」の相談件数は減っている。副業のトラブルは減った?
A: そうとは言えません。国民生活センターの「情報商材」の相談件数は2022年度7,000件、2023年度6,256件、2024年度4,118件(いずれも2025年5月31日現在の集計)ですが、これとは別の集計である「簡単なタスクを行う副業に関するトラブル」は2022年度2,793件から2023年度3,694件へ増えています。別々の集計なので、片方だけを見て全体を語ることはできません。
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今使っている手法を、いつ選んだか覚えているだろうか。

たぶん、誰かが「これが今いちばん伸びてる」と言っていた。数字も出ていた。実際に成果を出している人がいた。それで始めた——そんな感じだったんじゃないかと思う。

しばらくすると、思ったほど動かないな、と感じ始める。ちょうどその頃、別のやり方が目に入る。今度はそっちの数字のほうが良く見える。乗り換える。また少しして、同じことが起きる。

私もそうだった。ただ私の場合は、それが仕事そのものだった。15年かけて。

これから書くのは、その15年の話だ。読んでいて「これ自分だ」と思う箇所があったら、それはたぶん、私が15年かけてやった間違いと同じ形をしている。

同じブランドなのに、国によって景色がまるで違った

2000年から2015年まで、私はイタリアの老舗レザーブランドのバッグを卸す仕事をしていた。日本の百貨店の店頭に立ち、ミラノの卸業者と打ち合わせをして、ニューヨークの取引先に飛ぶ。そういう15年だった。

(以前このインサイトで、アメリカからバッグを1個だけ仕入れた話を書いた。今回はもっと長い、そして自分にとっては痛い話になる。)

日本の店頭では、お客さんが新作の写真を見せてくる。「これ、まだ入荷してませんか」。

一方、イタリアの取引先の倉庫は、まるで違った。埃っぽい棚の奥から、祖母の代から使われているような定番のバッグが、静かに動いていく。

アメリカの客も、イタリアの客も、母親や祖母が持っていたのと同じ形のバッグを、何十年経っても選んでいた。流行りのモデルより「これしか使わない」というものを持っている人が、多かった。

同じブランドの、同じ商品なのに。国によってこんなに景色が違うのかと、何度も驚いた。

「ヒロ、今シーズンはこっちが流行ってる」

卸業者との打ち合わせでは、決まってこう言われた。

「ヒロ、今シーズンはこっちが流行ってる。定番より新作を仕入れたほうがいい」

ミラノの担当者も、ニューヨークの担当者も、口を揃えて似たようなことを言ってきた。

そして、数字を見せられる。

確かに、そのシーズンの新作は動きがいい。その数字を見せられたら、どちらを仕入れるべきかは考えるまでもなかった。

こう書くと、いかにも「営業トークに乗せられた間抜けな話」に読めるかもしれない。でも、そうじゃないのだ。彼らは自分たちが見ているものを、正直に見せてくれていた。数字にも細工はなかった。

だから私は納得して、新作を仕入れた。あのときの判断を、あのときの情報だけで責めるのは無理だと思う。今でもそう思っている。

半年後、その新作は倉庫の隅にあった

半年後。

その新作は、倉庫の隅にあった。埃をかぶっていた。

代わりに、また別の新作が推されている。「ヒロ、今シーズンはこっちが流行ってる」。

その繰り返しだった。

一度や二度じゃない。シーズンが変わるたびに同じことが起きて、そのたびに私は同じ判断をしていた。半年前に勧められたものの名前が、半年後には出てこない。そして新しい名前が出てくる。私はまたそれを仕入れる。

その横で、倉庫の奥の定番は、あいかわらず静かに動いていた。打ち合わせで話題に上ることは、ほとんどなかったけれど。

不思議なもので、流行りものを追いかけているときほど、目的地から遠ざかっている感覚があった。ただ、その感覚をうまく言葉にできなかった。何かおかしい、で止まっていた。

この違和感の正体に気づくのに、実はけっこう時間がかかった。

数字は嘘をついていなかった

あるとき、ようやく腑に落ちた。彼らが見せてきた数字は、本物だった。捏造でも誇張でもない。

間違っていたのは、私の読み方のほうだ。

「今動いている」を、私は「これからも動く」と読んでいた。その数字が示していたのは前者だけなのに、勝手に後者まで読み取っていた。

アメリカやイタリアでは、定番を長く使うという文化が、もっと当たり前のものとしてそこにあった。日本の消費者は最新モデルに強く反応する。同じブランドの同じ商品でも、需要の形が違う。その違いは、渡された表のどこにも書かれていなかった。

20年近く海外にいても、自分の読みと現地の感覚のギャップは、思っていたよりずっと大きかった。

それで、仕入れ方針を変えた。勧められるがまま新作を追いかけるのをやめて、あえて定番モデルに絞った。

周りからは「それは攻めが足りない」みたいな顔をされた。地味な判断だというのは、自分でも分かっていた。

結果として、体感で売上が4〜5倍ほどに伸びた。

この「4〜5倍」について(お読みください)

この数字は当時の記憶と実感にもとづくもので、検証された実績値ではありません。当時の帳簿を突き合わせて出した数字ではないので、そのつもりで読んでください。

また、この経験は「地味に続ければ副業やFXでも同じように結果が出る」という話ではありません。取り扱う商品も市場も時期もまったく違います。ここで書いているのは、数字をどう読むかという姿勢・考え方の話であって、成果を約束するものではありません。成果には個人差があり、収益の金額は保証されません。

だから、継続すること自体に価値がある、という話ではないと思う。流行に振り回されずにいられることのほうが、結果的に大事だったのかもしれない。

副業の数字も、たぶん同じ形をしている

長いあいだ、これは自分の商売に限った話だと思っていた。私の読みが甘かった、それだけのことだと。

ところが、副業まわりの公的な統計を眺めていて、同じ形のものを見つけてしまった。

発見①:同じ数字が、後から書き換わる

国民生活センターがまとめている「情報商材」の相談件数は、2022年度 7,000件/2023年度 6,256件/2024年度 4,118件です(いずれも2025年5月31日現在の集計。消費生活センター等からの経由相談は含みません)。

ただ、この表は集計した時点によって中身が変わります。過去の集計時点をたどると、2022年度は「2023年5月31日現在」で 6,848件、「2024年5月31日現在」で 6,999件、そして「2025年5月31日現在」で 7,000件。2023年度も、6,174件から6,256件に変わっています。

同じ年度の数字が、後から増えているわけです。今見えている2024年度の4,118件も、この先わずかに増える可能性があります。(出典:国民生活センター「情報商材」)

つまり「今見えている数字」は、確定した現実ではない。あとから動く。私が15年、確定した現実だと思って見ていたものと、性質が同じだ。

もう一つある。

発見②:隣の表は、逆に増えている

国民生活センターの別の集計「簡単なタスクを行う副業に関するトラブル」の相談件数は、2022年度 2,793件 → 2023年度 3,694件と増えています。(出典:国民生活センター 2024年9月4日 公表)

⚠ この2つは別々の集計です。「情報商材」と「簡単なタスクを行う副業に関するトラブル」は、集計している対象も公表の枠組みも違います。片方が減り、片方が増えているからといって、「副業のトラブルは減っている」とも「増えている」とも言えません。どちらか一方の表だけを見て全体を語った瞬間に、事実誤認になります。

どちらも本物の公的データだ。誰も嘘をついていない。それなのに、どの表を見るかで、結論が正反対になる。

卸業者が見せてきた数字と、同じ構造だと思う。

手法を3つ目、4つ目と変えているとき

副業やアフィリエイトを始めた人が、手法を3つ目、4つ目と変えていくことがある。私はそれを見て、責める気にはまったくなれない。毎シーズン新作を仕入れ直していた自分と、たぶん同じことをしているだけだから。

乗り換えるとき、たいてい根拠はある。その手法で成果を出している人が実際にいて、数字も出ている。嘘ではない。

ただ、その数字が言っているのは「今動いている」までかもしれない。「これからも動く」ことまでは、そこに書かれていない。そして私は、その二つの区別がつかないまま15年やった。

いちばんきついのは、そういうときほど手を動かしている感覚があることだ。新しい手法を調べて、設定して、試す。忙しい。忙しいと、進んでいる気がしてしまう。

じゃあ、何を見ればいいのか

私が定番に絞ったときにやったのは、「良いものを選んだ」というより、「見るものを減らした」に近い。追いかける対象が減った分、目の前の一つをちゃんと見られるようになった。

副業の数字でも、同じことができると思う。

追う指標を1つに絞る

毎シーズン全部の新作を追いかけていたころの私は、毎日すべての数字を見ている状態と同じだった。表示回数、クリック、登録、報酬。全部見ていると全部が少しずつ動いて、そのたびに気持ちが揺れる。揺れると、手法を変えたくなる。

1
追う指標を1つだけ選ぶ。今の自分の行動といちばん直結しているものにする。記事を書いている段階なら記事数、紹介を始めた段階ならクリック数。報酬は、たいていまだ早い。
2
確認は週1回に固定する。曜日と時間を決めて、それ以外の日は開かない。「気になったら見る」は、実質毎日見ることになる。
3
残りの数字は1か月見ないと決める。消すのではなく、次に見る日を先に決めておく。見ない期間があるほうが、変化は読み取りやすい。

コントロールできること、できないこと

流行はコントロールできなかった。何を仕入れるかは、できた

当時の私にコントロールできなかったのは、そのシーズンに何が流行るかでした。ミラノの担当者にもコントロールできていなかったと思います。

一方でコントロールできたのは、何を仕入れるかと、その判断をどれくらい続けるかでした。副業に置き換えるなら、市場の動きや検索アルゴリズムの変更は前者、どの手法を選ぶかと何を書くかは後者になります。

気持ちが乱れるときは、たいてい前者ばかり見ています。見る先を後者に戻すだけで、手を動かせるようになることがあります。

これで成果が出る、と言うつもりはない。ただ、少なくとも「毎シーズン新作に飛びつく」状態からは抜けやすくなると思う。私の場合、抜けるまでにずいぶんかかった。

手法を増やす前に、自分の手で数字を取れる場所を1つ

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数字を読み違えないためのチェックリスト

1 その数字が「今動いている」を示すものなのか、「これからも動く」を示すものなのかを、分けて見た
2 同じ数字が、後から書き換わることがあると知っている
3 隣の分類では逆の動きをしていないか、別の表も見た
4 追う指標を1つに絞り、確認を週1回に固定した
5 コントロールできること(何を選ぶか・続けるか)と、できないこと(流行・タイミング)を分けた
6 その手法を選んだ理由を、自分の言葉で説明できる

私は15年、この問いに「流行っていたから」と答え続けていた。

今あなたが使っている手法、なぜそれを選びましたか。流行っていたからですか。それとも、自分の手で検証した結果ですか。

よくある質問(FAQ)

今いちばん流行っている手法に乗るのは間違いですか?
間違いとは限りません。流行っている手法について示されている数字は、多くの場合そのまま本物です。ただ、その数字が表しているのは「今動いている」ということであって、「これからも動く」ことを保証するものではありません。この二つを分けずに読むと、動きが鈍るたびに次の手法へ乗り換えることになり、どれも自分の手元に残らなくなります。おすすめは、誰かの数字を根拠に本格的に始めるのではなく、失っても痛くない範囲で自分の手で小さく試し、自分の環境でどう動くかを確かめてから広げることです。成果には個人差があり、収益の金額は保証されません。
毎日数字をチェックしてしまい、疲れます。どうすればいいですか?
追う指標を1つに絞り、確認を週1回に固定するのが現実的です。表示回数、クリック、登録、報酬をすべて毎日見ていると、それぞれが少しずつ動くたびに気持ちが揺れ、その揺れが手法を変える動機になってしまいます。今の自分の行動といちばん直結している指標(記事を書いている段階なら記事数、紹介を始めた段階ならクリック数)を1つだけ選び、確認する曜日と時間を先に決めてください。残りの数字は、次に見る日を決めたうえで1か月見ないと決めておくと、かえって変化を読み取りやすくなります。
「今動いている」と「これからも動く」は、どうやって見分けるのですか?
提示された数字だけで完全に見分けることはできません。できるのは、その数字が何を測ったものかを確認することです。いつからいつまでを集計したものか、誰のどんな条件下での数字か、そこが自分の条件とどう違うかを確かめてください。そのうえで、自分の手元で小さく再現できるかを試すのが、いちばん確かな確認方法になります。他人の環境で動いた数字が自分の環境でも動くとは限らないため、規模を大きくする前に小さく検証してください。なお、検証しても成果には個人差があり、収益は保証されません。
国民生活センターの「情報商材」の相談件数は減っています。副業のトラブルは減っているのですか?
そう結論づけることはできません。国民生活センターの「情報商材」に関する相談件数は2022年度7,000件、2023年度6,256件、2024年度4,118件です(いずれも2025年5月31日現在の集計で、消費生活センター等からの経由相談は含みません)。一方、これとは別の集計である「簡単なタスクを行う副業に関するトラブル」の相談件数は、2022年度2,793件から2023年度3,694件へ増えています。集計している対象も公表の枠組みも異なるため、両者を合わせて「副業のトラブルが減った」「増えた」と語ることはできません。また、これらの件数は集計時点によって後から上方修正されることがあり、現時点で公表されている数字が最終的な件数とは限りません。
Hiro Hiraki
執筆者
Hiro Hiraki
Kingfin JP 編集長。金融・FinTech分野の翻訳に15年以上携わるFXアフィリエイトの専門家。日英バイリンガル。